【V.W.P】総再生回数3億回越え|話題のバーチャルアーティストグループを徹底特集

昨今の音楽チャートには、動画サイトやSNSをきっかけに音楽活動を始めたアーティストの名が多く並ぶ。VOCALOID楽曲や既存曲に歌を載せるカバー曲(歌ってみた)、オリジナル曲など、インターネットシーンでのコアな盛り上がりが、SNSの発展とともにお茶の間へと浸透し、多くのアーティストが頭角を現した。もちろん現在も、インターネットカルチャーで盛り上がりを見せている音楽シーンは多数存在している。そのうちのひとつが「バーチャルアーティスト」だ。

「バーチャルアーティスト」とは


バーチャルアーティストとは人間の動きを読み取るモーションキャプチャを用いて、2D CGや3D CGで描画されたキャラクター/アバターの姿で音楽パフォーマンスをする者を指し、バーチャルシンガー・Vsingerと呼ばれることもある。

2016年にCGモデルでYouTuberクリエイター活動を開始したパイオニアが現れる。リアルタイムでCGキャラクターが動き、トークをする「バーチャルYouTuber」の画期的なシステムは多くの視聴者の心を掴み、多くのクリエイターが参入した。2018年頃からはライブ配信者の強みのひとつである「声」を活かして、歌手活動を行う者が急増。ここからバーチャルアーティストという概念が生まれ始めた。ミュージックビデオやストリーミングサービスでの楽曲再生回数が伸びるだけでなく、現地ライブを開催すればアリーナクラスの会場のチケットが瞬く間にソールドアウトするなど、その規模は大きくなり続けている。

バーチャルアーティストにはCGモデルに合わせて決められたキャラクターを全うし表現に徹する者もいれば、“中の人”と呼ばれる演者のアイデンティティを軸に活動を展開する者もいるなど、スタンスは様々だ。このように異なる個性を持ったバーチャルアーティストが集まったグループがある。それがKAMITSUBAKI STUDIOに所属するシンガー5人で結成された、V.W.P(=Virtual Witch Phenomenon)である。
V.W.P の楽曲を聴く♪
Pontaパス会員なら追加料金なしで楽しめます

リアルとバーチャルを纏うデジタルネイティブ世代のシンガー・花譜


次世代のクリエイターと共にネットカルチャーの最先端を産み出すクリエイティブレーベル/アーティストマネジメントチーム・KAMITSUBAKI STUDIO。CGアバターを使用する演者にはインターネットのトーク配信やゲーム配信、動画投稿といった動画クリエイター活動をメインに置く者も多いが、KAMITSUBAKI STUDIOに所属する面々の主軸は音楽活動だ。

KAMITSUBAKI STUDIOは、V.W.Pのメンバーのひとりである、シンガーの花譜がきっかけとなり設立された。彼女が中学生の頃に音楽アプリへ投稿した歌唱が、統括プロデューサー・PIEDPIPERの目に留まる。当時彼女はただ歌うことが好きなだけで、プロとしてデビューしたいという野心はなかったという。それを受けてPIEDPIPERがインターネット上で健やかにアーティスト活動を行うための方法として提案したのが、CGモデルを冠しての活動だった。

少女は花譜と名乗り、2018年にバーチャルシンガーとして活動を開始した。それまで3Dアバターを使用しインターネットで活動する者はキャラクター設定があり、それを踏まえてパフォーマンスをすることがほとんどだったが、花譜はデビュー時から年齢が14歳であることなどが明かされ、その後も高校入試のため約1ヶ月半活動休止したり、高校卒業や留学の報告をしたりと、ひとりの人間として成長していく姿を発信し続けている。

それは楽曲も同様だ。VOCALOIDクリエイター・カンザキイオリとのタッグで、「過去を喰らう」「不可解」などJ-ROCKサウンドに乗せて10代の若者が心の内に抱える葛藤をしたためた楽曲を多数発信する。楽曲リリースを重ねるごとに、柔らかさと切なさ、憂いを持ち合わせた彼女の声はますます情感豊かかつ洗練され、彼女の進化と成長をリスナーに強く印象づけた。

花譜は2021年からコラボ企画「組曲」を通してカンザキを始めとする様々なアーティストとタッグを組みさらに幅広い音楽ジャンルに挑戦し、ボーカリストとしての可能性を広げている。今年1月には花譜名義の活動と並行して、自身の制作した楽曲を3Dアバターを用いずに歌唱する廻花としての活動も行うことを宣言した。花譜は、リアルとバーチャルの隔たりを飛び越え、新たなスタイルを切り開く重要人物と言えるだろう。

V.W.Pは、2019年1月にリリースされた花譜の楽曲「魔女」が元になり生まれた。同曲では現実世界と仮想世界の狭間で時にもがきながら、時にその狭間を可憐に舞いながら歌う姿が魔女に例えられている。つまり魔法のように目の前の景色を変えてしまうような、感情を克明に刻み付ける鮮烈な歌があってこそ、V.W.Pの音楽は成立するのだ。

花譜と異なる個性とスタンスを持った理芽、春猿火、ヰ世界情緒、幸祜


V.W.Pには花譜以外に4人のメンバーがいる。今年9月に初の現地ライブを大成功に収めた理芽は、花譜のデビューからちょうど1年、KAMITSUBAKI STUDIOの発足日にデビューした。オリジナル曲は主に笹川真生が手掛けており、実写映画やドラマの主題歌、CMソングを多数担当するなど、花譜とは異なる方法でリアルとバーチャルの垣根を越えて活動している。2022年から23年にかけてアメリカへ語学留学を行うなど海外への造詣も深く、国境を越えてジャンルレスかつギミックの効いたカバー曲のチョイスは、新しい音楽と出会える良質なプレイリストを思わせる。

2020年1月に投稿したオリジナル曲「食虫植物」はTikTokをきっかけにヒットを記録し、VTuberのオリジナル楽曲において歴代再生数1位を誇る。アンニュイなムード、ユーモア、憂いなど細やかなニュアンスで音を彩る彼女のボーカルには、聴き手のままならない感情を優しくなだめる心地よさがある。ファンから“ギャル”と称される、さっぱりとした飾らないキャラクターも魅力のひとつだ。

2019年11月に活動を開始した春猿火は、5人の中で唯一ラップを得意としたシンガーだ。ラップアーティストのたかやんをはじめ、様々なコンポーザーと組み、多彩な楽曲を送り出している。VOCALOID楽曲のカバーでもラップを巧みに取り入れながらアレンジを施したりと独自のクリエイティブを追求している。

彼女の表現するこれらの音楽的技術や世界観が評価され、活動開始からわずか2年でアニメ「地球外少年少女」の主題歌や、Youtubeアニメ「テイコウペンギン」のオープニングテーマに起用されるなど、確実に認知を広げつつある。

楽曲に合わせて歌唱スタイルを様変わりさせるという憑依型な一面も持ち合わせており、カラフルかつ躍動感のあるボーカルで楽曲を牽引していく様は頼もしい。凛々しさと艶やかさをボーカルで巧みに操る「オオゴト」をはじめ、彼女のリズム感の良さが活きた「迷人」など、オリジナル曲はラップソングに留まらない。まだまだ底知れぬ可能性を秘めているシンガーだ。

2019年12月にデビューしたヰ世界情緒は名が表すように、自らの歌と創作で物語を生み出すバーチャルアーティストである。シンガーとしてだけでなく、イラスト、ナレーション、声優など様々なフィールドで自身の表現を極め続けている。

彼女自身の歌声は少女のように可憐で、物語性を重要視するスタイルゆえに楽曲の世界に聴き手を没入させる歌の力を持っているのが特徴的だ。代表曲のひとつである「シリウスの心臓」は、モールス信号をメロディに乗せた「ツー」「トン」の二言でも感情がダイレクトに伝わってくる。様々な異世界を作り出せるのは、多数のクリエイターとタッグを組んでいることだけでなく、彼女がそれらを歌いこなせるスキルと気概を持っているからこそだろう。

2020年10月にデビューした幸祜はロックナンバーを中心に歌唱するバーチャルアーティストで、パワフルかつ感傷的なサウンドと同様に、前に突き進んでいく力強さや艶と繊細さを持ち合わせたボーカルで魅了する。ライブでも言語化能力の高いMCやステージでの華やかなパフォーマンスなどポテンシャルを遺憾なく発揮し、V.W.Pのムードメーカーでありバランサー的立ち位置も担っている。

代表曲「the last bullet」や、コヤマヒデカズが作詞作曲を手掛けた「始まりの銃声」などのエモーショナルなロックナンバーでは、バンドサウンドと一体化するようにダイナミックなメロディをしなやかかつ堂々と歌い上げる。今年4月には「天城越え」のカバーをアップし、演歌も難なく歌い上げリスナーを驚かせた。どんな楽曲も煌びやかに彩る歌声は大きな強みである。

5人の個性が新しい色を作り出すV.W.P


異なる魅力や理想、音楽性を求める5人が集まるV.W.Pは2021年3月に始動し、これまでに2枚のフルアルバムをリリースしている。ライブを重ねるごとにグループとしての団結力は上がっており、2024年1月に開催されたV.W.P 2nd ONE-MAN LIVE「現象Ⅱ -魔女拡成-」は個々の色を発揮させながら、5人で新しい色を作ろうとするメンバーの歌唱や佇まいが印象に残った。2024年8月に公開された「暁光」は、今のV.W.Pのポジティブな空気を象徴する1曲である。

そんな彼女たちが11月2日(土)・3日(日)の2日間に渡り「KAMITSUBAKI WARS 2024 神椿幕張戦線 IN MAKUHARI MESSE EVENT HALL」を開催する。DAY-1は「V.W.P 2nd ONE-MAN LIVE『現象II(再)』」、DAY-2は「花譜 4th ONE-MAN LIVE『怪歌(再)』」と銘打たれ、両日ともに「神椿代々木決戦二〇二四 IN 代々木第一体育館」のリビルド(再構築)公演となる。現状はオーケストラの参加や、最新曲の追加、リアレンジなどが告知されているが、KAMITSUBAKI STUDIOいわく「再現/改善に止まらないディレクターズカット的な公演」となるという。

CGモデルならではのキャッチーで洗練されたビジュアルと、生身の人間だからこそにじみ出る熱量と空気感。リアルとバーチャルをフュージョンさせたバーチャルアーティストだからこそ生み出せるエモーションは確かに存在する。5人それぞれが個々の活動で真摯に音楽に向き合えば向き合うほどV.W.Pの強度も増していることは、この数年で明らかだ。彼女たちの生み出すクリエイティブの進化は、ここからさらに深みを増していくだろう。
V.W.P の楽曲を聴く♪
Pontaパス会員なら追加料金なしで楽しめます