SUPER BEAVER『音楽』全曲解説|ビーバー人気の秘密と19年の軌跡も詳説

ライター:沖さやこ
2020年4月にメジャー再契約をし、数々のタイアップソングのリリースに加え、ホール&アリーナツアーや富士急ハイランド・コニファーフォレスト2DAYSなど精力的にライブ活動を行う4人組ロックバンド・SUPER BEAVER。ライブで培った説得力に富んだ演奏力と歌唱力、自身のみならず聴き手をも鼓舞する楽曲などで多くのリスナーの心を掴んできた彼らが、約2年ぶりのフルアルバム『音楽』をリリースする。
 現在開催中のホール&アリーナツアー「都会のラクダTOUR 2023-2024 〜 駱駝革命21 〜」は、日本武道館3DAYSやさいたまスーパーアリーナ2DAYSを含むスケジュールながらも、全公演がソールドアウト。まさに昇竜の勢いだ。だがここに至るまで、4人は激動の人生を送ってきた。そんな稀有でドラマチックなバンドの軌跡を振り返り、最新作『音楽』を味わっていこう。

若くして掴んだ成功と、2度目のインディーズ人生で増えた仲間

完璧なスタートダッシュだった。2005年春に高校の先輩後輩である渋谷龍太(Vo)、上杉研太(Ba)、柳沢亮太(Gt)と、柳沢の幼馴染みの藤原“35才”広明(Dr)が集まり結成すると、僅か7ヶ月で10代対象の音楽コンテストに入選。メンバーは当時全員高校生で、若手ロックバンドのホープとして瞬く間に注目を集めた。

その翌年に同コンテストでグランプリ含む2冠を獲得し、全員が高校を卒業した2007年にインディーズデビュー、2009年6月にメジャーデビューを果たす。タイアップにも多く恵まれた。二十歳過ぎにして成功を掴んだ彼らについて、誰もが「破竹の勢い」「エリート街道爆走」「順調そのもの」と口を揃えた。
だが、どれだけ身を粉にして試行錯誤をしても、なかなか結果が現れなかった。人情や純粋さだけでは続けられないのが世の常であり、メジャーシーンでもある。2011年秋、彼らは所属していたメジャーレーベルと事務所を離れる決意をする。4人だけになった彼らが選んだのは、結成当初のように自分たちでバンドを動かす道だった。2012年に自主レーベルを立ち上げると、これまで以上にライブ活動に力を入れた。自分たちが尊敬する同世代や先輩後輩のバンドを競演に招いてしのぎを削り、愚直なまでに研鑽を積んでいった。その真摯でひたむきな姿はステージにも表れ、バンド仲間はもちろんライブハウスの観客たちの心も掴んだ。

当時の日本のバンドシーンは一聴したときにインパクトに残りやすい曲調や、フェスなどで盛り上がる着火性の高いロックに、踊れるサウンドが求められやすい傾向があり、SUPER BEAVERのようなギターロックはそれに追随するかたちだった。大勢の人を狂乱、興奮させるというよりは、観客一人ひとりの心を揺さぶる演奏と歌。それは密に音楽を体感できるライブハウスという空間で深く愛され続けた。

地道なライブ活動を続けるなか、彼らに転機が訪れた。2014年2月に、ライブハウス・渋谷eggman内のmuffin discsに発足した新レーベル[NOiD]から、3rdフルアルバム『361°』をリリースした。自分たちの足で歩んできた4人は、その道のりで信頼を置ける強力な仲間と出会ったのだ。彼らの協力をあおぎながら、引き続き自分たちが考える最前の道を選択し、地道な活動のなかで少しずつ共鳴者を増やし、次第に規模を大きくしていった。結成10周年を迎えた2015年には、キャパシティ1000人オーバーのワンマンライブのチケットは即完売するようになっていた。

4人がライブハウスで人々の心を掴んだ理由

SUPER BEAVERがライブハウスで支持されたのは、一つひとつのステージに全身全霊を込めることはもちろん、何事もうやむやにせず、心と頭をフル稼働させて一つひとつの物事に真摯に向き合い、活路を見出す生き方だったと推測する。メインソングライターである柳沢の書く楽曲は、バンドや聴き手を鼓舞するものが多いが、視点はリアリストで、表現方法は理論的だ。

「らしさ」には “自分らしく” という言葉への違和感が冷静に、「証明」には《僕もあなたも 一人なんだよ》《だから独りきりじゃ 成り立たないんだよ》と、シビアな現実から目を背けず、受け止めたうえで “ならどうする?” と打開策を求めて、自身の哲学を一つひとつ紐解くように綴る。それは他のメンバーも同様だった。がむしゃらに取り留めのないエモーションを吐き出し、観客にぶつけるのではなく、湧き上がる情熱を丁寧に、かつ一球入魂と言わんばかりのエネルギーで観客へと伝え続けた。バンドのセンターを張る渋谷の人を惹き付ける佇まいや、自身の美学を追求するファッションも、バンドのポリシーの象徴として華やかに映った。

目の前の一人ひとりに伝えることを重んじた高い言語化能力と、それを音楽に落とし込むスキルを併せ持った柳沢のソングライティングセンス、観客とまっすぐ向き合うバンドの人間力、楽曲に宿る感情を音に落とし込む4人の技術力はライブでより輝きを放った。紆余曲折のあった10年で、彼らは着実に地に足をつけていった。

インディーズでアリーナ公演を成功させ、再度メジャーシーンへ


インディーズバンドながらに2018年4月には日本武道館、2020年1月には国立代々木競技場第一体育館と1万人規模の会場のチケットをソールドアウトさせると、2020年4月にメジャー再契約を発表する。渋谷はその際「あなたとポップミュージック背負って、次は勝ちに行けると思ったんだよ」と公式コメントを寄せた。2018年リリースのシングル曲「予感」の歌詞に《どうあったって自分は自分で/どうやったって誰かにはなれない》《楽しい予感のする方へ 心が夢中になる方へ》とあるように、ライブハウスで出会ってきた仲間と、ライブハウスで磨いてきた音楽とともに、新たな出会いを求めてライブハウスの外へと出ていくことを決めたのだ。

コロナ禍1年目でライブ活動の制限を余儀なくされた年に、メジャーシーンへと移行したのは好機だった。人気アニメ『ハイキュー!! TO THE TOP』第2クールOPテーマに書き下ろした「突破口」で、これまで彼らと出会う機会がなかった人々が彼らの音楽に魅せられた。2021年には人気絶頂の漫画の実写映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用された「名前を呼ぶよ」がさらなるヒットを記録し、同年秋には自身最大キャパのアリーナツアーを大成功に納めた。

最新作『音楽』では、彼らが結成からの19年間、ぶれない信念を持って自身を日々磨き続けていることを肌で感じられるだろう。混沌を極める2024年で、彼らはどんな思いを持ってアーティストとして、バンドマンとして、ひとりの人間として生きているのだろうか。1曲1曲にフォーカスしていこう。
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SUPER BEAVER『音楽』全曲解説

●1.「切望」

アルバムを象徴する楽曲。歌詞には既発曲に使用されたワードも散りばめられ、音楽への変わらない姿勢が、解像度の高い視点と成熟した筆致で刻まれる。情熱的で硬派な演奏、その場の空気を掌握する力強く包容力に溢れたボーカル、突破力に催涙性を含ませたコードワーク、緩急の効いたドラマチックな展開、シンガロングパートなど、彼らの旨味が凝縮されたロックナンバーだ。
●2.「グラデーション」

2023年4月にリリースされた、映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』主題歌。映画の前編と後編をつなぐ “グラデーション” の役割を担い、曲のアレンジやテーマにも “グラデーション” が用いられている。歌詞に綴られた曖昧で割り切れない感情を描く、緊迫感と高揚感がない交ぜになった歌唱と演奏は圧巻だ。様々な葛藤のなかでたどり着く結論も胸を打つ。アウトロのピアノとストリングスの締めくくりまで、じっくりと味わってほしい。
●3.「ひたむき」

2022年11月にリリースされた、TVアニメ『僕のヒーローアカデミア』第6期オープニングテーマ。青春を真っ向から描いた潔い言葉たちに胸がすく。シンガロングパート、途中で挟まれるアコースティックギター、個性的で存在感のあるベースライン、攻め入るようなドラムパターンなど、サウンド面でも『ヒロアカ』の登場人物のようにカラフルで、一筋縄ではいかないギミックを取り入れるのも粋だ。
●4.「リビング」
リフレインと音の隙間が効いた、淡々としたムードで展開するミドルナンバー。恋するふたりの間に生まれるすれ違いが一方の視点から綴られ、やわらかく乾いた音色とコーラスで彩られる。交際相手に抱く微細な違和感という、言語化しにくい繊細な感情を「変わる」というワードを巧みに用いる手腕も、感情を抑え込もうとする渋谷の “引き” のボーカルも見事だ。シューゲイザーライクなエフェクティブなギターも、焦燥や感傷を美しく染める。
●5.「値千金」

2023年12月にリリースされた「第103回全国高校ラグビー大会」テーマソング。夕暮れを思わせる、あたたかくもほのかに切ないバンドサウンドで構成されたミドルナンバーで、歌詞がまっすぐ届く。ラグビーの要素を絡めて人間関係を描き、《やがて僕らは 憧れ追い越して 新たな夢ができたりして》と大人ならではの視点も混ぜるなど、傷だらけになりながらも戦う人々に寄り添う1曲に仕上がった。
●6.「めくばせ」
小気味よいギターのカッティングと跳ねたビートで織り成すポップソング。歌詞に書かれるのはSNS社会に疲弊する人々へのメッセージだ。幸福感のあるサウンドや、友達に話しかけるようなフランクな歌詞には、SNSに飛び交う言葉の刃をはねのける力を宿す。デジタルの発展とともに成長してきた昭和末期生まれ世代であり、観客の目を見て音楽を鳴らし続けた “現場至上主義” な彼らならではのバランス感覚が小気味よい。

●7.「奪還」
ダンスビートの要素やターンテーブルを取り入れた骨太のロックナンバー。アグレッシブでありながらもスマートで、サイレンのようなギターの音色も歌詞に綴られた決意をより引き立てている。妥協せず、大事なものをもれなく掴んでいくという姿勢は、どれだけポップシーンに乗り込もうともロックバンドであることを捨てない彼らそのものだ。間奏のギターとベースの掛け合いやシンガロングパートなど、ライブを想起させる音像で圧倒する。

●8.「決心」

2023年11月リリースの森永製菓「inゼリーエネルギーブドウ糖」CMソング。アコースティックギターが用いられ、爽やかな疾走感と少しの哀愁を感じるサウンドが耳に優しい。若者たちが抱えている漠然とした不安や怒り、悲しみの道標ともなり得るメッセージ性の強い歌詞は、大人たちが忘れていたかつての炎を呼び覚ます力も兼ね備えている。

●9.「幸せのために生きているだけさ」

2024年1月にリリースされた、テレビ朝日系ドラマ『マルス-ゼロの革命-』主題歌。優しいアルペジオの音色と語りかけるように紡がれる伸びやかな歌声が聴き手を包み込む。この世には様々な人間がいて、一人ひとりが他の誰かになることはできない。誰もが幸せのために生きる権利があることを、穏やかに説いてくれる。

●10.「裸」
打ち込みのビートとアコギで織り成すスローナンバー。極限までそぎ落としたサウンドが、パーソナルで独白にも近い歌詞を際立たせる。大切な人がいるからこそ湧き上がる様々な思いが、乾いた静かな夜に溶けていくようなサウンドスケープが心地よい。眠りに就く瞬間にふとこぼれる不甲斐なさと、悩むなかで見つける活路。自分自身と静かに対話する時間が流れる。

●11.「儚くない」

2023年6月にリリースされた、映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』主題歌。歌にスポットを当てた壮大なバラードだ。歌詞を噛み締め、語り掛けるような渋谷のボーカルはビブラートまで美しく、その震えは涙でうるんだ瞳を見ているかのようだ。ストリングスとグランドピアノが鳴り響く中で、静かに激しく鳴る歪んだギターソロも胸をかきむしる。

●12.「小さな革命」
1曲目の「切望」とは異なる切り口で、バンドのアティテュードを示す楽曲。SUPER BEAVERの楽曲に出てくる登場人物は圧倒的な強者ではない。順風満帆とはいかない日々に打ち負かされながらも、常に “自分はどうしたい?” と問いかけ続け、小さくても一歩を踏み出し、目の前にいる大切な人とまっすぐ向き合おうとする。その生き様は、我々にも広い視野を与えてくれた。《音楽で世界は変わらないとしたって/君の夜明けのきっかけになれたら》という現実主義的でロマンチックな一節を、ここまで純粋にまっすぐ届けられるバンドは、どんな時代にも必要だ。
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