【特集】 agehasprings玉井健二|話題のバンド・トゲナシトゲアリについて徹底取材

2024年4月に放送開始が決まった東映アニメーションのオリジナルアニメ「ガールズバンドクライ」が放送開始前から大きな話題を呼んでいます。本作と連動するリアルガールズバンド「トゲナシトゲアリ」は、オーディションで選ばれたメンバーで構成される5人組。そう、彼女たちの活躍こそが話題となっているのです。公式YouTubeチャンネルには既に10本のMVが公開されており、なかには1,000万回再生を超える楽曲も。来たる3月16日には初のワンマンライブ「薄明の序奏」を控えるなど、アニメ放送前から話題が尽きません。

そこで今回は、「ガールズバンドクライ」の音楽プロデューサーを務めるagehasprings・玉井健二さんにインタビューを実施。YUKIやAimerなどの楽曲プロデュースでも知られる氏に、同バンドの魅力はもちろんのこと、本プロジェクトが始まった経緯や楽曲制作における秘話など、たっぷりとお話を伺いました。

アニメと連動するガールズバンド「トゲナシトゲアリ」とは

「トゲナシトゲアリ」は、東映アニメーション・agehasprings・ユニバーサルミュージックジャパンの3社がタッグを組んだオリジナルアニメプロジェクト「ガールズバンドクライ」の劇中に登場するガールズロックバンド。理名(Vo.)、夕莉(Gt.)、美怜(Dr.)、凪都(Key.)、朱李(Ba.)からなる5ピースバンドで、現実世界でも活動しています。

2021年6月に開催されたオーディション「Girl’s Rock Audition (※)」にて、数千人の応募の中から選ばれました。彼女たちはアニメの主題歌を務めるだけでなく、メインキャラクター5人の声優も担当しています。公式YouTubeチャンネルには既に10本のMVが公開されており、なかでも第5弾MVの「爆ぜて咲く」は1000万回再生を突破と新人バンドらしからぬ高い実力と話題性を兼ね備えています。2024年3月16日には神奈川・横浜 1000CLUBにてトゲナシトゲアリの初ワンマンライブ「薄明の序奏」が開催予定と、アニメ放送開始前から話題沸騰の注目バンドです。

※agehasprings主催、東映アニメーション・ユニバーサルミュージック協力のもと開催された

agehasprings・玉井健二に訊くトゲナシトゲアリの魅力

2024年4月に放送が決定した新作オリジナルアニメ「ガールズバンドクライ」。今回は、agehaspringsの代表で、本作の音楽プロデューサーを務める玉井健二さんにインタビューを実施しました。

アニメ×リアルガールズバンドのプロジェクトが始まったきっかけ

──本プロジェクトが始まった経緯について教えてください。また、最初にオファーをいただいた時の率直な感想もお聞かせ願えますか。

2019年末に東映アニメーションの平山プロデューサーから、TVアニメーションとリアルなガールズロックバンドが連動するオリジナル脚本の企画にお誘いいただきました。その際、生半可ではない熱量と共に、他の類似するコンテンツといかに差別化していくか?映像作品としては様々な新しいテクノロジーを駆使してゆくこと、そして、何よりも音楽のクオリティと本気度がいかに重要だと感じているか、といった本企画の主旨を伺いながら、率直に申し上げて “これはエラい話に巻き込まれそうだな” というセンサーが激しく発動しました。

ただ、切々と構想を語る平山氏を眺めながら “ああ、これはまた自分じゃなければ実現できない夢案件だな” とも感じ始めていました。ポイントになったのは “これは本気のガチのバンドなんです” というフレーズでした。“バンド形態” のアニメコンテンツは当時も様々に存在しましたが、ガチのバンドが先行してデビューし、その後にメンバーを主体としたアニメ―ションがスタートする、且つ、なるべく放送が始まる前には売れていて欲しい、など、えーと本気ですか?といった夢想のオンパレードでしたが、もう片方の脳で楽曲と音像をいくつも構築し始めている自分がいることに、もっと驚きました。たぶん最初からこのチームと連動する運命だったんだと思います。

バンドと声優の二刀流。数千人の中からメンバーが選ばれた理由

──トゲナシトゲアリはオーディションでメンバーを選考されましたが、どんな過程を経てどういったところを基準に選ばれたのでしょうか。実際に選出された各メンバーの決め手となったポイントについても教えてください。

2021年にオーディションをスタートし、ありがたいことに数千人のご応募をいただきました。が、バンドとして即メジャーデビューし得る音楽力と、渾身の力作アニメの声優を担える実践力、その両方を併せ持つ人材が簡単に見つかるわけもなく、率直に表してメンバー選考は困難を極めました。

個々の演奏の良し悪し、といった一軸だけならもっと速やかに選考出来たかもしれませんが、バンドと声優を二刀流で担う、という点と、酒井監督、平山Pと共に物語のプロットや肝になる楽曲制作にはもう着手していたので、劇中の各キャラクターや楽曲との相性なども含め、様々な要素も踏まえた上で同時に選定せねばならず、結果1年半以上かかって現場担当者を筆頭に、最後はアゲハスプリングスの発掘関連スタッフ総出のフル稼働で人材の捜索にあたりました。

最終的に数万を超える情報の中から選りすぐったメンバーと、とても良い出会いに恵まれましたが、その過程に於いて、何度も何度も妥協しそうな圧に抗いながら僕がもっとも重視した点は、当然ながら既存のあらゆるロックバンドと並べて遜色の無い演奏力、歌唱力、そして総合的に将来性を最も高く見積もれる音楽的ポテンシャルです。

理名、夕莉、朱李、凪都、美怜、それぞれ広く世に誇れる欠け値無しの逸材を獲得できたと、いまでは確信しています。

派手さよりも実力重視。玉井健二が語るメンバーの注目ポイント

──玉井さんのご視点で、メンバーの「ここに注目してほしい」というところがあれば教えていただけますか。

トゲナシトゲアリのメンバーを担う5人には音楽的な面で事前に共通する基準を設定させて頂きました。

1.美しく、激しく、正しく旋律を奏で得る才能を備えていること
2.音楽への愛を “尋常じゃないレベル” で抱いていること
3.演奏している姿、それ自体に人々を魅了する素養を備えていること

なぜこの基準か?というと、この3点こそが、凡庸な楽器演奏者と、トップクラスのプロミュージシャンとの決定的な相違点で、この3点のレベルの高さ=そのミュージシャンのレベル、といって差し支えないほど、プロの音楽家を見定めるうえで極めて重要なポイントだからです。

つまり、企画モノとして瞬間的にウケそうな見せ物として派手なプレイヤーよりも、永く玄人を唸らせる真のミュージシャンになり得る素養をあくまで求めた、ということです。は一見ビジュアルだけの問題のように思われるかもしれませんが、が溢れる段階に到達したとき、結果、は高いレベルで具現化する能力でもあります。

そして、この基準に於いて膨大な候補の中から選ばれたのが、理名、夕莉、朱李、凪都、美怜の5人でした。
美怜はドラマ―としてキャリアの面ではまだまだ発展途上ながら、超高速の8ビートからアフターなジャズ、R&Bまであらゆるジャンルに対応し得る根源的で上質なグルーヴ感を、発掘した時点で既に備えていました。専門的すぎて説明しづらいのですが、つまり我々がプロのドラマーという人種に最終的に問う利点を彼女は今もう持っている、という事です。そして見積もった通りに、この数年でショットの強度と精度の面でも各段に高めてくれています。いまショットのクオリティに於いて、既存の女性メジャーバンドの中でトップクラスに位置していると思います。そして、見た目に反したエモーショナルなプレイスタイルもドラマーとしての大きな武器です。これらは、アリーナやスタジアムなどのライヴ会場を視野にいれたとき、必須で要求される能力でもあり、その点に於いても美怜は極めて貴重な才能を備えています。
朱李はベーシストとして、フレット上を抉る俊敏性とリズムを確実にキープし続ける正確性を兼ね備えた、極めて稀有な才能を誇ります。ややもすれば “習い事” のようなベーシストが乱立するなかで、朱李だけは高校生の頃から実は最も難しいこの楽器をブンブンに鳴らせていました。そもそも持っているベースがヘッドレスと5弦という、拗らせレベルの音楽愛をもひしひしと感じさせてくれました。我々はベーシストの良し悪しを測るうえで “フレーズの切れめ” にも着目するのですが、大抵のベーシストはここが疎かで、曖昧に端折って次のフレーズへと意識が向かってしまいますが、朱李はこの点に於いても、早い段階で我々を唸らせるフレーズ管理能力の高さを感じさせてくれました。ここも、永くプロで活動するなかではじめて身に付く能力であり、5弦のベースをブン廻すように超高難度のフレーズを支配する末恐ろしい少女を目撃した日の感動を、我々はいつまでも忘れないと思います。そしてその才能をこの数年で着実に能力として進化させつつある様を観て、巷のベーシストがそう簡単には弾けないフレーズを多用するトゲトゲ楽曲の選択肢を我々に与えてくれています。
凪都は、ピアノ、キーボード等の鍵盤演奏に於けるリズムの正確性とタッチの精度の高さの面で、いま既にアーティストのサポートメンバーを担えるレベルに達しています。そもそも素養と呼ぶ以上の、相当なレベルの才能が無ければ、トゲナシトゲアリの楽曲のBPMには到底対応できません。事実、熟練のサポートミュージシャンが二の足を踏むような高難易度の演奏を、実に軽やかに笑顔でこなしてくれています。ピアノというある意味最もアカデミックな楽器で、光速のリフやソロを多用するトゲトゲの特徴あるアレンジは、凪都の類稀なる演奏力無しでは考えられませんでした。世の中にピアノを譜面通りになぞれる人は山のように存在しますが、彼女のように激しく高速に、そして正確なリズムで確かな音色を奏で続けることが出来る鍵盤奏者は、この国に於いてほんの一握りしか存在しません。その上でオーディションの段階でも、有段者が相当な年数を重ねてクリアするレベルの難問をいくつも設定させてもらいましたが、そのすべてをほんの数か月でクリアしてくれるような、途方もない努力をも厭わない情熱も兼ね備えた、きわめて尊い人でもあります。
夕莉は、数多いる女性ギタリストの中で、我々が最も “音楽的だ” と評価したギタリストです。例えば “アルペジオは簡単だ” という声をときどき耳にしますが、アルペジオをレコーディングで一発録りできる精度で弾けるギタリストは、メジャーデビューしているバンドの中でもほとんど存在しません。そして “左手” を器用に操れるギタリストは巷でちょくちょく見かけますが、既存のギタリストの中でも、トップクラスとそれ以外を分けるもっとも明快な境界線は、むしろ “右手” の繊細な精度です。ギターもやはりリズムとタッチの精度、つまり右手にある一定の才能を持っている人は、その後キャリアの上限を突破してくれる可能性が高まります。というわけで、オーディション最終段階のギタリスト候補の皆さんには “エレキを歪ませないで弾いてみせてください” とお願いしました。ゴマカシが一切効かない極めて厳しい状況の中で、素養の質を測らせてもらった結果、選ばれたのが夕莉でした。バッキング、ストローク、カッティング、アルペジオ、単音のソロパート、すべてのギタープレイの精度に於いて、音楽的に未知の領域への対応力も含めた総合的な面でも、近い将来トッププロに成り得る才能を感じさせてくれた唯ひとりのギタリストでもありました。加えて、夕莉に感じるのは、自分のプレイのみならず、バンド全体のアンサンブルを聴き分けられる俯瞰の耳を持っている点もまた、決め手となったもうひとつの才能です。ドラム、ベース、鍵盤、オーケストレーション、そしてボーカル。そのすべての音の渦のなか、自分が奏でるギター、という俯瞰の視野が明らかに感じられるプレイをいつも披露してくれています。これはギター演奏のみならず総合的な “音楽家としての才能” でもあります。
理名は、僕の音楽遍歴の中でも1、2を争う才能を感じたボーカリストです。当初は年齢的にもまだ能力の開花度で言うと10%にも満たない段階でしたが、この声と耳を発掘するまでに結果1万人以上のボーカル資料と向き合いました。まず高音域に於いてワールドクラスの魅力があること、且つ、あらゆる楽曲の中で埋没しない唄声の “芯” を持っていること、その上で、その唄声から意志の強さを感じれること。この辺りを判断基準としていましたが、そのすべての要素を満たしていながら、発見当初まだ14歳という想定外の “特徴” をも持ち合わせていました。さすがに若すぎるのでは?という懸念も当初ありましたが、良い意味で年齢を忘れさせてくれるくらい、しっかりと着実に活動しながら日々成長してくれています。力強い声、というのは毎日のように耳にすることが出来ますが、柔らかく、強く刺す声、というのは世界中のミュージック・シーンに於いてもめったに聴くことが出来ません。その面でも、理名は素晴らしい素養を持っています。加えてロゴやサムネのように “あ、あの人だ” と耳で聴いた瞬間に認識できる “個” を感じれるか?でいうと、この世の中でも一握りしか存在しないでしょう。その一握りになる可能性を間違いなく秘めている、極めて稀有な逸材です。

主人公視点に立った楽曲制作──楽曲のコンセプトとは

──トゲナシトゲアリの音楽について、どんなところを軸に楽曲制作をされているのでしょうか。バンド全体のサウンドのテーマや楽曲それぞれのコンセプトがあれば、あわせて教えてください。

現状のすべての楽曲は “河原木桃香がトゲトゲを想定して創るであろう楽曲” という視点から着想しています。

劇中の設定上2004年頃に生まれた桃香が、最も感度の高い時期、小学校の高学年あたりで音楽に興味を持つきっかけとなる曲と出会うとすると、2015年前後の動画やSNS上で観られた曲の中にあったはずで、おそらくは同級生よりかなり早熟気味であったろう桃香が反応しそうな楽曲、ここが旋律感やサウンドの質感の原点となっていて、その後スマホを手にしたであろう2017~2018年あたりから数年間のJ-POPど真ん中でないバンド系とボカロ系を聴き込みながらギターを手にし、作曲を始めた2020年前後辺りで “聴く曲” と “参照すべき曲” を別の耳で聴き分けはじめた、という仮説を立てました。そうすると、歴史上最速のBPMを更新するかのごとく高速化していったボカロP曲のスピード感と、転調を繰り返しながらめまぐるしく展開する高再生オリエンテッドなバンドサウンドをリアルタイムで浴びながら、推しが影響を受けたであろう過去のロックやジャズやR&BやEDMの歴史をコード進行ごとなぞった、才能溢れる女性ギタリストが表現したかったサウンド、というのを、トゲナシトゲアリの楽曲の基本コンセプトとしています。そこに、毎分めまぐるしく更新される動画にインスパイアされながら、検索機能をフルに活かして耳触りの触感を突き詰めながら書き綴る純文学風味のリリックを、思春期を通して夢中で掘り下げたであろう、桃香の熱量そのものを散りばめた歌詞、を組み合わせたうえで、アニメの世界線とは別軸のリアルな邦楽シーンに於いて、このインディーズバンドのプロデュースを僕が引き受けたとしたら、という量子力学的視点で、ヘビメタ由来でなく下北種でもない、変異した新種のガールズバンドとはどうあるべきか?を毎曲更新しながらトライし続ける、という指針で進めています。

超光速で純文学を綴る5ピースバンド「トゲナシトゲアリ」

──トゲナシトゲアリは、アニソン・邦ロック・J-POPとさまざまなジャンルを横断し、ポエトリーリーディングも多用しながら、新しさと聴き馴染みのあるキャッチーさをバランスよく取り入れたバンドだなと感じています。アニメと現実世界と二つの世界線で活躍する新しい形のバンドとして、見せ方だったり世界観を作ったりするのに苦労するところはありますか。また、玉井さんにとってトゲナシトゲアリとはどんなバンドでしょうか。

ガールズバンド界隈をあらためて調べてみると、ざっくりと分けて、ヘビメタ・HR由来か、フォーク軸のローファイ系といった2つの軸が両サイドに確立している一方で、高濃度の音楽性とヒットポテンシャルを両立し得るチャートの真ん中を担う存在がいま見当たらない様な印象を受けました。で、あるならば、トゲナシトゲアリには高い音楽性を誇示しつつ、情緒的な唄としても寄り添える難度の高い楽曲が必要だ、という極めてシビアな結論に至りました。

併せて、国外のガールズバンド状況も調べてみて、ビジュアルがアイドル風で、ちょっとつたない演奏の歌謡曲テイストのバンドが人気を得ている印象も強く受けました。

翻って我々の場合、バンドサウンドで聴衆の時間を占有する率をいかに上げるか?を、突き詰めた結果、当初仮で “超光速で純文学を綴る5ピース・ロック” という基軸・コンセプトを制作チーム内では共有しました。

アイドル的な魅力のみで抉じ開ける隙間はもう残っていない、反面、グローバルなポップミュージックの真ん中とアニメ・オリエンテッドな世界、その両者を繋ぐガールズバンドもまた見当たらない、であれば、光速の日本語でいかにその一点を鋭く突けるか…という相当な覚悟を要するポジショニングを執ってみることにしました。

その上でもうひとつ、このリサーチの段階であらためて気づいた点として、バンドという集団ほど、長期的な視野で観る戦略的な運営をしづらい存在である、という現実もまた再認識しました。我々は5人のメンバーの夢と、アニメ制作者の夢、その両方を預かる身として、この現実に抗う必要も同時に感じました。バンドあるあるという、宝くじのようなギャンブルではなく、情熱を糧に挑戦し続けるために、成功体験を積み上げていけるような構造を模索し続け、時系列と未来地図の中から絞り出した解として、このバンドはひとつずつ、ただし確実に、誰よりも高い階段を昇って行こう、という極めてシンプルで研ぎ澄ました戦略を描きました。

各メンバーには何よりもまず、その音楽性をライヴで表現し得る演奏力、そして表現力を求めました。併せて、すべてのパートを担うメンバーは将来、個々にプロとして活躍出来るレベルの能力を着実に備えていくこと、これも音楽的な活動基準とさせていただきました。

バンドの一員としての基準をクリアしてくれていれば問題は無い、これも確かに事実ですが、トゲナシトゲアリは存在自体が革新的なコンテンツでもあります。まず各パートを担うメンバーはプロの演奏家に最速でなり、同時に声優となり、日本のアニメが世界中で認められているレベルの領域、音楽でいうK-POPが到達しているグローバルな高みに、ロックバンドとしてのライヴ・パフォーマンス、という分野に特化して、最速で到達する。日本のコンテンツだけが成し得るポテンシャルを最大限に活かしきった結果、数秒間演奏している姿を観ただけで、その人の人生が変わる、という純粋で尊い感動を、約束できるレベルで担保する、ここを一点突破で駆け抜けて “トゲトゲのように楽器や歌にトライしてバンドをやりたい” と、国内外80億の音楽ファンにアピールし得る存在となる事、それが最初のゴールである、と位置付けました。

この国で生まれた平均年齢20歳未満の5人のガールズバンドが、誰もが真似したくなる最高のパフォーマンスをすべての音楽ファンに向けて披露する、これがトゲナシトゲアリの立ち上げの基軸・コンセプトとなり、その目標に向かって突き進む5人は我々にとっても夢だ、という事です。

アニメと連動して始動したトゲナシトゲアリ──今後のビジョン

──トゲナシトゲアリは、アニメをもとにスタートしているプロジェクトですが、アニメ終了後もバンドとして継続していく予定でしょうか。今後のビジョン・展望について教えてください。

アニメの原型から着想したプロジェクトですが、トゲナシトゲアリはバンドです。バンドとして成功することをメンバーと共に目指します。

サブスク・ショート動画全盛の現代における「トゲナシトゲアリ」の戦術

──ストリーミングサービスやショート動画が市民権を得たことで、アーティストサイドに一層の工夫が求められる時代になっていると思います。一曲が聴かれるハードルの高さがある中で、トゲナシトゲアリに仕掛けた狙いがあれば教えてください。

限られた人達が “知ってもらえる権利” を独占できた時代が終わったんだ、とも捉えられると感じていて、その側面を誰よりも強く突けるような、その楽曲を知った人が、他人に伝えなきゃ気が済まなくなる濃度をひとつの基準としています。真新しさを強調する以上に、“すぐ解る魅力” を “いつも” 発揮できているか?の必要性がより増しているとも言えます。

トゲナシトゲアリで言えば、バンドに詳しい人達には、彼女たちのビジュアルから連想されるキャラクターと個々の演奏のクオリティのギャップに、まず着目してもらえるでしょうし、それ以外の属性の人達にもメンバー5人が放つその熱量に必ず反応してもらえると思っています。そのためにも、バンド然と目線を高く置きすぎず、メンバー個々とあらゆる属性のユーザーとの接点にあまり制限を設けない戦術を執るべきだとも感じています。

他バンドに比べて、攻めの発想をスタッフ間にもたらしてくれるのも、個々のミュージシャンとしての素養にそれくらい自信がある、という裏付けがあってこそです。
トゲナシトゲアリの楽曲を聴く♪
auスマプレ会員なら追加料金なしで楽しめます

玉井健二が感じる日本の音楽シーンの課題と目指すべきバンド像

──最後に、玉井さんが感じる現在の日本の音楽シーン全体が抱える課題と、ご自身のプロデュースを通じて提示していきたい音楽性や価値観について教えてください。

僕個人としては、長年に渡って、日本の音楽コンテンツの国外市場に於けるシェア率の低さに言いようの無い憂いを感じてきました。日本のすべての音楽人の近未来を真剣に見据えた時、国外の79億人に向けたコンテンツも、真剣に量産していく必要性をどうしても感じてしまいます。かつて主流だった “アジア人には無理” という見方はK-POPが完全に覆しました。内向きだけじゃない、もうひとつの遠くへ高く伸びた道筋を創るために、我々が持つ強みをあらためて客観的に見積もるべきだと考えています。

もうひとつ、国内に目を向けると、バンドマンのキャリア、という視点で課題が無いと言い切れるだろうか、という問いに、おなじく長年に渡り悩まされ続けています。デビューしてから何十年も第一線で生き残れているバンドって、いくつ数えられるだろう、その反面、この数十年でどれだけのバンドがメジャー・デビューして、何万何千人のバンドマンが廃業してしまったんだろう、ここを論じられることがあまり無い様に思えて、いまこの時代に於いても、持続可能性の極めて低いこの構造をただ受け入れるべきなのか?率直な疑問を拭えないでいます。

我がアゲハスプリングスに所属しているクリエイターの中にも、多くの元メジャーデビュー組の元バンドマンがいます。彼らはある意味でいまセカンドキャリアを精一杯輝かせて日々躍動してくれていますが、それ以外の、一度はバンドを職業にした人たちのその後は、正直知る由もない。本当にこれで良いのだろうか、とあらためて感じます。

同時に、邦楽のバンド・シーンに於ける “キャリアの分岐点” を検証してみると、ミュージシャンがバンドとして大きな成功を手にするのみならず、その成功を長い年月継続し得たかどうか、は “バンド内に優秀なソングライターがいたか否か” が顕著に分類している、というひとつの事実に突き当たります。バンド内に優秀なソングライターがたまたま居なかったが故に、極めて将来性豊かだったギタリストや、貴重な才能を感じたベーシスト、無双の個性が光っていたドラマー達が皆、廃業していきました。彼らと苦楽を共にしたであろう優秀なソングライターを有する素晴らしいバンド達と日々現場で向き合う一方で、そのあまりにも非情で儚い国産ミュージシャンの現実と、アニメやK-POPに比して日本の音楽コンテンツが国外で苦戦している現状が、どこかで密接に絡んでいるように思えてなりません。

この惨状の根源がどこにあるのか?未だ答えは見つかっていませんが、僕がいま明確に言い切れる点を挙げるとしたら、“真に価値ある演奏者たちにもっと光を当てるべきだ” というひとつの持論になります。

単純に、心を震わせてくれる演奏を目撃した瞬間に、大げさでなく人々の人生は変わります。

個が持って生まれた多種多様な才能と、それを極限まで研ぎ澄ました生き様に惹かれてしまう、といった現象はダンス・パフォーマンスの分野では世界中で日々増幅され続けています。それがロックという分野に於いてはやはり不可能である、という結論を出すにはまだ早い、と観るべきじゃないでしょうか?

同時に、国外からも称賛される質を誇る個々の演奏者たちのキャリアは、バンド内に優秀なソングライターがいたか否か?という宝くじのような宿命から独立させて、ひとつずつ丁寧に構築していく時期に来ているのだと思います。瞬間、心を奪われるような演奏者の価値が、先進国の中で最も低い国に分類されるような現状だとしたら、新たな時代を切り開く新しいタイプのプレイヤーの出番を、固定概念を覆す決意をもって最高の形で演出する必要があるんだと感じています。

そしていま、トゲナシトゲアリと僕らが目指すこの世界線は、前述の2つの課題を超えた新たな未来のバンド像を観てもらう瞬間を夢見て、才能と叡智を結集して全力で駆け抜けてみようと思っています。

米メジャー・リーグでは日本人プレイヤーが当たり前のように活躍する時代になり、世界のトップリーグで日本人ストライカーが毎日のようにゴールを決め、テニスやゴルフの世界女王の座に日本人プレイヤーが君臨するその傍らで、動画の総再生数やライヴの観覧希望総数に限ったとしても、国外で邦楽は認められている、とは言えない現実があります。

世界中の耳と目、その2つともを一瞬で強烈に捉える必要性にまっすぐに挑み続けたか否か?此処から目を逸らさない態度も、いま求められているように思えてなりません。磨き上げた個々の才能を極限まで迸らせ、ただ純粋に、ミュージシャンが楽器をかき鳴らす姿に感動する、この瞬間と遭遇するユーザーとの接点をいかに増やせるか?この課題に我々は真っ新な目線に戻ってトライし続けるべきなんじゃないかと、あらためて感じています。

アニメは4月より放映開始・トゲナシトゲアリは3月に初のワンマンライブ

東映アニメーションによる新作オリジナルアニメ「ガールズバンドクライ」が、2024年4月よりTOKYO MX、サンテレビ、KBS京都、BS11にて放送されることが決定。それと同時に、「トゲナシトゲアリ」が2024年3月16日に神奈川・横浜 1000CLUBにて、初のワンマンライブ「薄明の序奏」を開催することが発表されました。アニメ放送を直前に控える中、本格的に始動するバンド活動の ”序奏” となります。

■番組情報
ガールズバンドクライ
2024年4月、TOKYO MX、サンテレビ、KBS京都、BS11にて放送開始

<スタッフ>
原作・企画・製作:東映アニメーション
シリーズ構成:花田十輝
音楽プロデューサー:玉井健二(agehasprings)
劇伴音楽:田中ユウスケ(agehasprings)
キャラクターデザイン:手島nari
CGディレクター:鄭載薫
シリーズディレクター:酒井和男

<キャスト>
井芹仁菜:理名
河原木桃香:夕莉
安和すばる:美怜
海老塚智:凪都
ルパ:朱李

■配信情報
auスマートパスプレミアムミュージックほか各種音楽配信ストリーミングサービスにて全10曲好評配信中

まとめ

2024年4月、ついにアニメ「ガールズバンドクライ」の放送が開始されます。製作には「ラブライブ!サンシャイン」で知られる酒井和男さんや「ラブライブ!」シリーズや「宇宙よりも遠い場所」の脚本の花田十輝さん、YUKIやAimerなどの楽曲プロデュースを手がける玉井健二さんなど、豪華な制作陣で話題を集める本作。ティザーPVやキービジュアルも既に公開されており、すでに多くのファンが期待を寄せています。

さらに、アニメと連動するリアルガールズバンド「トゲナシトゲアリ」も、2024年3月16日に神奈川・横浜 1000CLUBにて初ワンマンライブ「薄明の序奏」を開催予定。アニメの放送に先駆け、バンド活動の "序奏" となる今回のステージ。ぜひ会場に足を運んでみてはいかがでしょうか。
トゲナシトゲアリの楽曲を聴く♪
auスマプレ会員なら追加料金なしで楽しめます