新しい学校のリーダーズ『AG! Calling』全曲解説|5年ぶりのニューアルバムを徹底解剖
ライター:沖さやこ
 セーラー服姿の4人が、抜群のチームワークで独創的かつスタイリッシュなダンスパフォーマンスを繰り広げる様は、とても痛快で鮮烈だ。「個性や自由ではみ出していく」「青春日本代表」をコンセプトに掲げるダンスボーカルユニット・新しい学校のリーダーズ。2024年は1月に日本武道館公演を360度ステージでソールドアウトさせ、世界最大級の音楽フェス「Coachella Vally Music and Arts Festival」Gobiステージで2週連続大トリを飾るなど、国内外で精力的な活動を行っている。

 日本では2023年の頭に「オトナブルー」の首振りダンスが注目を集め、一気に知名度を上げた。この1、2年で彼女たちを知った人のなかには、活動開始からほどなくブレイクしたグループと認識している人も多いかもしれない。だが新しい学校のリーダーズの結成は2015年。RIN、SUZUKA、KANONが中学生、MIZYUが高校生の頃だ。

 彼女たちは結成直後からひたむきに、ポジティブに自分たちのパフォーマンスを磨き続けた。ブレイクに至るまでの絶え間ない努力があったからこそ、数々のチャンスの波に華麗に乗るだけでなく、自ら旋風を巻き起こす現在のたくましい姿があるのだ。彼女たちの軌跡を振り返りながら、5年ぶりのフルアルバムとなる最新作『AG! Calling』を1曲ずつじっくりと味わっていこう。
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次々と訪れるチャンスと試練に、背伸びをしながら全力でしがみつく

 結成直後から、絶好の機会に恵まれた。tofubeatsが編曲およびサビ以外の作詞作曲を担当したチューインガムのCMソング「噛むとフニャン tofubeats Remix」をパフォーマンスし、公の場へと姿を現した。この頃から「セーラー服」と「前衛的なダンス」というスタイルの基礎が築かれている。つまり、リーダーズは活動初期から時代におもねらないスタンスを取っていた。当時の日本の音楽シーンにおいて、ダンスボーカルユニットは男女ともに大所帯グループや大手事務所に所属するアイドルが主で、中高生としてのリアリティと型破りなコンセプトを併せ持つ少数精鋭の彼女たちはそのどこにも属さなかった。まさに異端児だった。

 2017年のメジャーデビューを機に4人はさらに我が道を進む。「昭和歌謡風ピアノロック」という新ジャンルに舵を切った。バンドサウンドと昭和歌謡を掛け合わせたポップアーティストはそれまでも続々登場したが、そこにダンスを加える者はほぼ皆無に等しかった。昭和歌謡風ロックよりもダンスをさらに映えさせるサウンドやリズムは、世の中に多く存在するからだ。だが活動当初からすべての振り付けを自分たちで考える4人は、知恵を出し合いじっくりと時間を掛け、背伸びをしながらも難易度が高い表現を追求した。その結果、グループの個性を確立すると同時に、個々の特色や特技も引き出すことに成功する。異端な中高生グループは、遊び心のあるコンセプトとメンバーの人間味を自然体で両立できるアーティストへと健やかに成長した。

 転機は2019年の『若気ガイタル』リリース以降。ライブで様々なジャンルのアーティストと競演し、SNSで積極的に自身のパフォーマンスを発信しはじめた。そのなかで同じ事務所に所属した若きバンドマン兼トラックメイカー・yonkeyと出会う。彼はこれまで彼女たちが掲げてきた歌謡曲の要素を、ダンスと相性のいい打ち込みサウンドへと昇華させた。その第1弾作品が2020年5月にリリースされた「オトナブルー」である。

 これまでの経験を活かしたうえで新しいフェーズに入った彼女たちに、さらなる出会いが舞い込んだ。アメリカを拠点にアジアのカルチャーシーンを世界に発信するメディアプラットフォーム兼レーベル・88risingの目に留まり、2021年に同レーベルから世界デビューを果たす。2022年にはアメリカで初のワンマンを行い、北米最大級のアニメコンベンション「Crunchyroll Expo」に出演。国内のライブでもキャパシティを広げていくなか、追い風となったのが2023年の「オトナブルー」のヒットだった。「逆輸入アーティスト」としても様々なメディアでピックアップされ、年末には「新語・流行語大賞2023」入賞や「第74回NHK紅白歌合戦」初出場などでお茶の間への知名度を上げる。人気アーティストとしての地位を不動のものとした。

 そんな歩みを経て届いた最新作『AG! Calling』は、アメリカのTV番組のパフォーマンスでも話題となった「Tokyo Calling」をはじめ、「Coachella」で初披露された新曲2曲、Netflix映画『範馬刃牙VSケンガンアシュラ』OP主題歌「Fly High」など、全11曲を収録する。日米それぞれのプロデューサーが参加し、今の4人の歌唱とダンスの魅力を最大限まで引き出す楽曲を揃えた。アメリカチームも日本チームと同様に、懐かしさと現在のトレンドを掛け合わせたサウンドメイクを行い、よりディープかつ多角的なAG!ワールドを実現させている。

 風変わりかつ奇抜でありながらも滑稽にならず、大胆でキャッチーなだけでなく凛々しさも兼ね備え、どこか謎めいたムードも醸す。ユーモアと度胸で自由にはみ出しながら邁進していく4人は「新しい学校のリーダーズ」の名に相応しい。夏には国内の音楽フェスに多数出演し、世界24都市を回るワールドツアー後は自身最大規模の日本ツアー「新しい学校のリーダーズツアー2024(仮)」を行う。進化を止めない脂の乗った彼女たちの「今」をダイレクトに閉じ込めた『AG! Calling』の楽曲も、この先ますますライブでスケールを増していくだろう。
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国境を越えたAG!流ポップスが炸裂する『AG! Calling』全曲解説

1. Fly High
 Netflix映画『範馬刃牙VSケンガンアシュラ』OP主題歌。ビートを軸としたスリリングなトラックに乗せて、何かと戦う人、未知なる世界へ挑戦し続ける人を「困難に打ち勝ちさらなる高みを目指そう」と鼓舞する。RINの躍動感のあるラップ、MIZYUとKANONのミステリアスな歌声、SUZUKAの聴き手を曲の物語に引き込むボーカルと、4人それぞれのボーカリゼーションがわかりやすく提示されているという意味でも、アルバムのオープニングに相応しい。

2. Toryanse
 2024年1月リリースのデジタルシングル曲。「通りゃんせ」「あんたがたどこさ」「ほたるこい」といったわらべ歌を引用し、現代風にアレンジしている。仄暗いムードとユーモラスな空気感を両立し、落ち込んだ人の心情にスポットを当てながら軽やかに「前に進もう」と呼びかける。そのメンタリティを、今の日本人に馴染みはないが意味のわかる古語「とおりゃんせ」に集約させるセンスも小気味よい。クールなボーカルも中毒性を倍増させている。

3. Omakase
 祭囃子や歌謡曲を彷彿とさせる和風のメロディや和楽器と、トライバルなコールやビート感が融合するトラックに、おのずと身体が動き出した人も少なくないだろう。人生に行き詰まりを感じる人々や、塞ぎ込みがちで生きる気力を失う人々に、軽やかな調子で《今夜は全部忘れ 踊ろう》《AG!におまかせ》と歌う和ダンスナンバー。反骨精神を覗かせながらも愉快なムードでもって新しい世界へといざなう、リーダーズ流の頼もしさがクリアに表れている。

4. Maji Yoroshiku
 日米プロデューサー陣による共作曲。ホーンや手数の多いドラム、80年代を彷彿とさせる華やかなシンセなどで構成される刺激的なファンクサウンドが、爽やかなグルーヴを作り出す。歌詞に綴られるのは、メンバーのライブに対するポリシーやステージに立ったうえで観客に伝えたい思い。そんな情熱を《いやマジよろしく!》という日本人ならではの抽象的なニュアンスの言葉に集約させるのも、彼女たちの人懐っこいキャラクターのなせる業である。

5. Essa Hoisa
 ディープで物々しいヒップホップトラックと演歌風のメロディのブレンドは、日米プロデューサー陣の共演の真骨頂だ。日本語のみで構成される歌詞には、新しい学校のリーダーズが歩んできた道のりが「渡り鳥」をモチーフに描かれている。前例のないスタイルで活動を続けるなかで味わったシビアな心情と芽生えたハングリー精神、貫いてきた洒落っ気が混ざり合い、表現者としての矜持が美しく羽ばたく楽曲に仕上がった。
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6. Drama (feat. MILLI)
 88risingに所属するタイのラッパー・MILLIをフィーチャリングし、アメリカのプロデューサー陣と制作した国際色豊かなナンバー。アンニュイで憂いのあるメロディとバンドサウンドに、キャッチーなラップが乗るというコントラストが特徴的だ。MILLIのラップにはタイ語と日本語が巧みに入れ込まれ、リーダーズへのアジアアーティストとしての共感と、国境を越えたリスペクトが感じられる。サビに入る瞬間のジェットコースターを下降するような高揚感も心地よい。

7. Superhuman
 アメリカのプロデューサーチームと制作した全編英語詞の同曲は、チアダンスとサーフミュージック風の音色とコードワークが掛け合わさった、軽快でコケティッシュなナンバー。KANONとMIZYUのしとやかで艶やかなボーカルがなぞる「あなたがいるからわたしは超人でいられる」「あなたはこの世の者とは思えないほど素晴らしい」という英語詞のメッセージが清らかに響く。国境という概念を曖昧にする神秘的なサウンドデザインだ。

8. Forever Sisters
 宇宙空間を彷彿とさせるテクノサウンドと、一言一言に余韻を持たせた歌唱で織り成す浮遊感は、隅々まで麗らかだ。海外を飛び回り活躍する4人の人生が綴られた歌詞との相乗効果で、どこまでも遠くに導かれるような没入感が生まれている。クールで洗練された空気感だけでなく、真摯で熱い気持ちや遊び心も静かに伝わる、多彩な趣で溢れた1曲。リーダーズらしさと新境地の乱反射が眩しい。

9. Arigato
 ファンクと歌謡曲を掛け合わせたアレンジに乗せてSUZUKAがメインボーカルで歌い上げる、新しい学校のリーダーズのショーマンシップを表した楽曲。他曲と一線を画すのは、歌詞に彼女たちのカリスマ性に魅せられて陶酔するファンの視点も盛り込んでいる点だろう。各メンバーが「尊い!」という台詞を情感たっぷりに叫ぶなど、要所要所でコミカルなアプローチを見せる。4人の喜劇役者的なセンスにスポットを当てる、爽快なポップチューンだ。

10. Hero Show
 80年代のディスコ歌謡曲を彷彿とさせるポップソング。シンセの音色だけでなく、《焦(じれ)ったいわ》や《瞳の奥 メラメラ》《愛の十字架》など歌詞のワードチョイスも当時に近い。「オトナブルー」の姉妹曲としても位置付けられるのではないだろうか。しゃくりなどを用いて情熱的に歌い上げたかと思いきや、笑える要素で切り返すという、ギャップを巧みに取り入れたSUZUKAの歌唱がさらに楽曲を輝かせる。

11. Tokyo Calling
 2023年10月リリースのデジタルシングル曲。日々の生活で苦悩や葛藤を抱える人々の放つ警報(=Tokyo Calling)をキャッチしたリーダーズがそれを解決し、共に未来へと歩みを進めるという、彼女たちの生き様とエネルギーをヒーローもののストーリーに落とし込んでいる。エキゾチックな歌唱パートは陶酔感を放ち、晴れやかで壮大なサウンドへとなだれ込む展開はまさにカタルシスだ。経験を重ねた今の彼女たちだからこそ堂々と表現できる人生賛歌。それは「青春」以外の何物でもない。
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