THE YELLOW MONKEY "Sparkle X" 全曲解説|復活の狼煙を上げる渾身の一枚を徹底深掘り
ライター:蜂須賀ちなみ
なんて凄まじいバンドなんだ。なんて固い絆なんだ。

THE YELLOW MONKEYが2024年4月27日に開催した東京ドーム公演『THE YELLOW MONKEY SUPER BIG EGG 2024 "SHINE ON"』を観た私の感想は、主にこの2点に集約される。

THE YELLOW MONKEYがライブを行ったのは、感染症対策による動員人数の制限があった2020年12月の公演以来3年半ぶりだった。ライブの前半は代表曲が勢ぞろいのロックンロール&エンターテインメントショーで、歌声や歓声を上げる観客とともに楽曲を歌い鳴らし、3年半前の悔しさを晴らした。ライブの後半は、吉井和哉が喉の病気から再びステージに立てるようになるまでを追ったドキュメンタリー映像からスタート。その映像は「ここまで見せるのか」と驚愕せざるを得ないほど生々しいもので、今後の人生をともに歩むファンに全てを明らかにする覚悟で彼らはステージに臨んだのだろうと想像するに難くない。ここ数年で向き合ってきたことの重みがずっしりと乗っかったバンドの演奏と、その全てを受け止めるオーディエンス。ラストまでやりきった吉井は「まだ完璧な声になってなくて、何の保証もないままやっちゃって申し訳ないんだけど、みなさんの歓声があるからできると思った」と胸中を明かし、その上で「治ったら2デイズやるぞ!」と約束した。本当に、壮絶なライブだった。

5月29日リリースのニューアルバム『Sparkle X』は、この東京ドーム公演に向かう中で制作された作品だ。この記事では、メディア向けに開催された『Sparkle X』最速試聴会&合同取材でのメンバーの発言を交えながら、THE YELLOW MONKEYの軌跡、および『Sparkle X』収録曲を紹介したい。

80年代後期のバンドブームが去ったあと、1992年にTHE YELLOW MONKEYはメジャーデビューした。メンバーは吉井和哉(Vo/Gt)、菊地英昭(Gt)、廣瀬洋一(Ba)、菊地英二(Dr)の4名で、菊地英昭と菊地英二は実の兄弟。黄色人種に対する蔑称をあえてバンド名にしているところに、「邦楽よりも洋楽の方が上」といった当時の空気に対するシニカルな見方が表れている。

第二次世界大戦での敗戦後、アメリカのポピュラーミュージックが日本に持ち込まれ、ロックンロールは日本の歌謡と結びつき独自に発展した。その歪な系譜上に誕生したTHE YELLOW MONKEYは、70年代のグラムロックにハードロックや昭和歌謡、サイケデリックを掛け合わせた音楽を志向。その音楽性は今でこそ後続のミュージシャンの参照点や憧れの対象のひとつになりつつあるが、メンバーの派手なメイクやビジュアルも含めて、当初よりバンドシーンでは異端の存在だった。

スター性とバイタリティを兼ね備えたメンバーのプレイ。生きる意味を探して足掻き続ける人間のちっぽけさを、洒落を効かせながら描く吉井の歌。華やかで耽美主義的でありながら、アングラで退廃的な雰囲気を纏ったバンドとしての佇まい。THE YELLOW MONKEYはそのユニークな持ち味でやがて人々を魅了し、ライブでの動員数は増加していく。CDセールスは初めから好調だったわけではないが、1995年リリースの5thシングル『Love Communication』でスマッシュヒットを記録。以降は次々とチャートを席巻し、「太陽が燃えている」「JAM」「SPARK」「BURN」「バラ色の日々」などのヒットソングとともにバンドの名は全国に広まった。街に出ればTHE YELLOW MONKEYの曲が流れているし、ラジオをつければ誰かがTHE YELLOW MONKEYの曲をリクエストしているし、カラオケに行けばみんながTHE YELLOW MONKEYの曲を歌いたがる。モンスターバンドと言って差し支えない状況だろう。

しかしバンドとは繊細なバランスで成り立っているもの。多忙に伴う疲弊や近しいスタッフの死去、その他様々な要素が重なってメンバーの心をすり減らした。外部プロデューサーとのコラボなどバンドを続けるための模索を経ても、ここから上昇していくイメージは描けなかった。2001年1月に開催された初の東京ドーム公演『メカラ ウロコ・8』を最後にバンドは活動休止。活動再開を待っていたファンの願いは叶わず、2004年7月に解散を発表。こうしてTHE YELLOW MONKEYの存在はファンの記憶の中に一度封印された。

それから12年後。2016年1月にTHE YELLOW MONKEYは再び私たちの前に姿を現した。しかも一夜限りの復活ではない。彼らは「バンド活動をもう一度始める、そして続ける」ために戻ってきたのだ。「バンドの可能性を諦めずに活動休止の選択をしたものの、やはり解散という結論に至った」という経緯を一度見ていたファンにとって、これは奇跡のような出来事。同時に、4人自身がバンドの可能性を信じているからこそ再集結したのだろうと彼らの決断から伝わってきたことが、何より喜ばしいポイントだった。こうしてかつて一世を風靡した伝説のロックバンドから、リアルタイムで新作を発表し、成長を続ける現役のロックバンドに変化したTHE YELLOW MONKEY。今回リリースされた『Sparkle X』は、再集結後初のアルバム『9999』から5年ぶり、通算10枚目のオリジナルアルバムにあたる。

ドラマ多きバンドTHE YELLOW MONKEYだが、前作から5年の間にも様々なことがあった。まずは新型コロナウイルスの流行。これによりロックバンドのライブ活動が大きく制限されたが、THE YELLOW MONKEYの場合はバンド史上初のドームツアーのうち、2020年4月に予定していた東京ドーム2デイズ公演が開催中止に。その後2020年11~12月に代替となるドーム&アリーナ公演『THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary Live』が、声出しや収容人数の制限などを守りながら行われた。なお、当初予定していた東京ドーム2デイズは、2024年5月時点で実現していない。今年4月の東京ドーム公演で吉井が「治ったら2デイズやるぞ!」と言っていたのは、リベンジしたいという想いがあるからだろう。

そして吉井の喉の病気が発症。「THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary Live」終了後しばらくライブはなく、2022年12月に日本武道館で開催予定だったライブは、吉井が十分な歌唱の準備を整えることができないことを理由に中止となった。その裏では声帯ポリープの切除手術とリハビリ、治療を行っていたという。

吉井の病気は、さいわい早期での発見だったこともあり治療によって根治した。一方、吉井は声が出なくなっただけでなく一時は死の淵に立ち、4人はバンドが続けられるかどうか分からなかったというのもまた事実であり、そのことが『Sparkle X』という作品に大きな影響を与えている。「こういう切羽詰まった状況がロックには必要」と語る吉井は、自らの逆境をポジティブなエネルギーに変換し、創作へと向かった。そして原点回帰のロックンロールアルバムが完成。吉井のロックンロールスピリットは、自身の現在の心境や死生観が反映された歌詞から感じ取ることができる。その歌詞は、菊地英二も「今までは死と言いながら生を歌うとか、絶望と言いながら希望を歌うとか、ちょっと捻くれたような歌詞の表現をしていたけど、今回のアルバムはすごくストレート。言葉の一つひとつの重みが違うし、ロビン(吉井)が乗り越えてきたことが伝わると思います」と評するほどストレートだ。

また、声が上手く出せない状況での作詞作曲だったことから、自分の得意な領域で勝負しようと決め、「あとはメンバーの演奏で華やかにしてもらえれば」とメンバーに託した。印象的なキーボードの音色は、再集結以前にサポートを務め、東京ドーム公演『SHINE ON』で久々にライブに参加した三国義貴によるもので、これも一つの原点回帰要素。バンドのサウンドはいきいきと弾んでいて、曲終わりにわずかに残る楽器の音(弦に指が触れた音、気分が乗って足した音など)も収録されているなど、セッションの空気感がそのままパッケージングされている。「もう一度バンドをやれる」という喜びとともに素直に純粋に音楽を楽しむメンバーの姿が想像できた。収録曲をまとめてプリプロ&レコーディングする一般的なやり方ではなく1曲ずつ録っていくスタイルや、そもそもライブを目指して制作されたアルバムだったことも、各テイクがみずみずしく感じられる要因だろう。「自分たちが目を瞑ってもできる曲を“これ大好き”ってやることが大事」と吉井は語るが、それは私たちロックバンドファンがバンドに求めることとも一致している。

『Sparkle X』の“X”は、“10”と“未確認”のダブルミーニング。原点回帰することで、ルーツにあるもののまだチャレンジしていなかった領域も発見したそうだ。「胸のボタンを3つ開けて“イェーイ”みたいな、今までのTHE YELLOW MONKEY節はあまりないかもしれませんが、代わりに出てきたものが新しいTHE YELLOW MONKEYの宝石だと思ってます」と吉井。「アルバム発売前に3曲出ていますけど、まだ世の中に出ていない曲の底力、それが全部詰まった上で『Sparkle X』というアルバムになるということを強調したいです」と廣瀬。菊地英昭は「このアルバムが復活の狼煙。こないだのドームでも思いましたけど、素晴らしいオーディエンスがたくさんいるので、彼らの元に音を届けたいですし、彼らと一緒にまた新しい世界を目にしたいです。また転がっていきたいと思いますので、みなさんこれからもよろしくお願いします」とまとめた。そう、バンドはあなたとともにネクストステージへ進むことを望んでいる。だからこそ、まずは自分たちが音楽を楽しみ、輝くことで、あなたの進む道を照らす太陽になろうとしたのだろう。
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THE YELLOW MONKEY 10th Album "Sparkle X" 全曲解説

1. SHINE ON
冒頭のギターリフとそのメロディを引き継いだ歌い出しが印象的な、シンプルなロックンロールナンバー。原点回帰のアルバムを象徴する1曲で、メンバーいわく、「あえてベタな、今までやってそうでやっていなかったこと」を狙ったという。東京ドーム公演と同名のこの曲は、2024年4月に先行配信された。「SHINE ON」は直訳すると「輝き続ける」という意味だが、困難な状況でも前へ進み続ける人が、周囲の人に希望や勇気を与える様子を表現する言葉としても用いられる。現在の吉井和哉とTHE YELLOW MONKEY、リスナーの関係性をまさに象徴する言葉だ。

2. 罠
Eマイナーキーの曲だが、平行調借用によりGメジャーという一筋の光が数秒の間だけ差す。しかしまたすぐに薄暗い世界へ。基本世界はダウナーで、死神や黒猫など「不幸を呼ぶ」「死を運ぶ」モチーフを用いているが、〈ドキドキするのは心臓が/生きたいからだと動いてる/一生懸命血を送り/破裂寸前であの世に行くまで〉と鼓動が止まない理由、ひいてはTHE YELLOW MONKEYがロックを鳴らし続ける理由を力強く歌っているのが印象的だ。すぐそこに迫る死と「生きたい」と願う気持ちがデッドヒートを繰り広げるような歌詞は、言葉単体でも疾走感抜群。さらに、バンドのサウンドがヒリヒリとした質感を加速させている。
3. ホテルニュートリノ
2024年1月に、4年ぶりの新曲として先行配信された曲。〈人生の7割は予告編で/残りの命 数えた時に本編が始まる〉という歌詞は東京ドーム公演のMCで引用され、本当にそう思ってこの曲を作ったと吉井は語っていた。THE YELLOW MONKEYには珍しくスカのビートが取り入れられているため、新鮮味を覚えた人も少なくないだろう。一方「スカとはいえ78年くらいですから」と笑っていたメンバーには新しいことにトライした感覚はなく、やってそうでやっていなかった領域を探す中でこの曲調に辿り着いたそうだ。なお、アルバムの制作はこの曲から始まり、その後少し時間を置いてから「罠」、「SHINE ON」が制作された。廣瀬は久々のレコーディングとなった当時のことを「スタジオに入って音を出すのが単純に楽しかった」と振り返る。

4. 透明Passenger
楽しく軽快なロックンロールナンバー。弾むバンドサウンドにひょいとライドするような歌い出しが気持ちよく、ロックバンドという乗り物に乗って、人生という名のワインディングロードを愉快にドライブする4人の姿が思い浮かんだ。〈いつかは透明〉〈透明に近づいてる〉と死に向かっていく感覚が表現された歌詞もあるが、THE YELLOW MONKEYは死生観を歌ってもペシミスティックになりすぎない。逆境に抗う心をストレートに歌いつつも、「きっと何とかなるじゃん?」といった感じで流れる景色にある程度は身を任せているような彼らのロックンロールスピリットを表す上で、〈あなたの処へ 光よりも速く〉のあとに〈Hey/月額無料さ 今ならお得さ〉と続けるユーモアや、Aメロ/Bメロ/サビの境界を曖昧にさせるボーカルのフレージングはさりげなく効いている。
5. Exhaust
作詞:吉井和哉、作曲:菊地英昭によるナンバー。先述の通り、今作では吉井が奇を衒わずストレートに勝負した分、菊地英昭が書くメロディの個性、メインコンポーザーに対するオルタナとしての存在感が際立っている。不思議な動き方をするギターのメロディも印象的だ。歌詞に出てくる吊るされた男のタロットカードは、拘束され身動きのとれない状況を表しているが、「試練を受け入れられるほど強い精神力を持っている」という暗示を含み、「逆さになって世界の見え方が変わったからこそ、新しい価値観を得られる(だから今は静かに試練と向き合う時期だ)」というメッセージを受け取ることもできる。ここからが人生の本編と覚醒する現在のTHE YELLOW MONKEYを象徴するモチーフだ。
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6. ドライフルーツ
〈オセアニアのフルーツマーケットで〉と歌い出しから独特な雰囲気を漂わせる曲。戦後の流行歌を彷彿とさせるポップさと不穏さがあり、異国の少女との出会いを描いた歌詞も相まって、アルバムのいいスパイスになっている。なお、菊地英昭は「このギターソロがアルバムの中で一番好きかもしれない」と語った。今までのTHE YELLOW MONKEYの楽曲ではアームを使うことがあまりなかったが、この曲で挑戦し、手応えを感じているという。
7. Beaver
4分音符で動くシンプルなベースラインを土台に、跳ね回るピアノのメロディがかわいらしく印象的な曲。全体的にリラックスした温度感でまとめられている。今回の制作で吉井はメンバーに対して「違うことやりましょう」と提案するのではなく、「好きなことをやってくださいね」と塗り絵を渡した感覚だったというが、「Beaver」はその最たるものだそうだ。ビーバーを主人公とした歌詞は絵本のような世界観だが、〈そぼふる雨の日も/灼熱地獄日も/いつか紙吹雪が舞う/祝福の世界へ行きたいね〉といったフレーズから死生観が垣間見えるほか、〈Just Do It Again〉と締め括っているところにバンドの意志を感じる。
8. ソナタの暗闇
2024年4月、「SHINE ON」と同日に先行配信された曲。パワフルなスネアと曲全体を貫くベースリフから始まり、ピックスクラッチを経てギターもリフに合流、そしてボーカルが歌い始めるという冒頭の時点で4ピースバンドの旨みが出まくっている。リフを中心に固めにリズムを刻んでいく曲だからこそ、スネア16分連打からの全楽器が白玉になるラスサビは地道な積み重ねを回収するクライマックスという感じで、熱量を爆発させたような演奏が堪らない。菊地英二にとっては収録曲中最もドラムを叩くのが楽しかった曲で、東京ドーム公演でもこの曲を演奏している時は特に入り込めたのだそうだ。

9. ラプソディ
〈オパ オパ オパ オパ オパ 〉というサビのフレーズは、一度聴いたら頭から離れなくなること必至。ラストに〈オパキャマラド〉という言葉が出てくるように、童謡「クラリネットをこわしちゃった」と結びつけて声帯の不調をユーモラスに歌った曲で、「さすが吉井和哉、すごい発想力だ」と思わされるが、実はこの曲には裏話が。街中ですれ違った小さな子が「おっぱい」と言っているのを聞いてこのサビを思いついたものの、「さすがにこの歌詞のままでは出せない」「でも他にいい歌詞が思いつかない」と最後の最後まで悩んだそうだ。最終的に現在の歌詞を思いついたのは今年3月、名古屋でのファンクラブミーティングから新幹線で帰っている時。吉井本人もいいアイデアをひらめいたと感じていたのだろう、完成時にはバンドのグループLINEに「できた!」と報告したという。
10. Make Over
作詞作曲:菊地英昭によるナンバー。吉井いわく「エマ(菊地英昭)のデモはドラムが複雑。菊地家特有のグルーヴがある」とのことだが、この曲のドラムは確かに細かい。特にBメロからサビにかけての畳みかけは強烈で、他楽器が比較的ゆったりと動いている分、コントラストが鮮やかだ。包容力のあるバンドサウンドの中で激しく燃える炎のようである。曲中で繰り返される〈Pura Vida〉は、非武装中立の国として知られるコスタリカの挨拶のフレーズ。「元気ですよ」や「OK」、「また明日」などのニュアンスでライトに交わされる言葉だが、人生での小さなことも大きなことも喜び楽しむこと、平和や幸福を大切にする精神を象徴するワードでもある。
11. 復活の日
東京ドーム公演で初公開する前提で制作された曲。様々なオマージュを含む雄大なロックナンバーは、吉井いわく「みんなとこの場所でこの音を感じたい」というシンプルな気持ちから生まれたとのこと。「この部分はなんだか手拍子をしたくなるな」「ここは一緒に歌ったら気持ちよさそう」とライブでの光景を想像しながら、生で聴ける日を楽しみにしていたい。タイトルの通り“復活”をテーマにした曲で、東京ドーム公演での「みなさんの歓声があるからできると思った」という発言を参照するに、〈一緒ならなんだって乗り越えられると〉というフレーズは吉井の本心だろう。だからこそ今作は〈あなたとわたしの/復活の日にぴったりだ〉というフレーズで締め括られる。わたしだけでは仕方ない。あなたがいてこその『Sparkle X』でありTHE YELLOW MONKEYなのだ。
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