LINKIN PARK『FROM ZERO』全曲解説|“ゼロからの再始動“ を示す新アルバムを徹底解剖

ライター:増田勇一
奇跡のアルバム。大袈裟な言い草だと思われるかもしれないが、11月15日に世界同時発売を迎えたLINKIN PARKの『FROM ZERO』は、まさにそう呼ぶに相応しい1枚だ。多くの人たちがずっとその復活の日を待ち焦がれてきたはず。ただ、誰もがそれは叶わぬ願いだと諦めかけていたのではないだろうか。

2017年7月20日。その日を境に、バンドは歩みを停止せざるを得なくなった。その日に何が起きたかについては改めて述べるまでもないだろう。彼らがLINKIN PARKとしての終止符を提示することはなかったが、以来長く続いた沈黙を、終焉を意味するものと受け止めた人たちは少なくなかったに違いない。
しかし2024年の夏、事態は一転。日本時間の8月24日、バンドのSNSのオフィシャル・アカウントにタイマーの画像がアップされ、謎めいた100時間のカウントダウンがスタート。それと同時にバンドが新たなヴォーカリストを迎えて再始動するのではないかとの憶測が飛び交うようになった。結果、カウントダウンがゼロに達しても、そこに表示される数字がごく当たり前のようにプラス方向に動き始めただけだったが、それがまさしくLINKIN PARKの歴史が新たな「ゼロからのスタート」を切った瞬間だったのだ。

そしてバンドは、公式ファンクラブ会員のみを対象とする特別イベントを9月5日にロサンゼルスで実施することを発表し、その開催当日には「The Emptiness Machine」と題された新曲を公開。その楽曲には新ヴォーカリストとして迎えられたエミリー・アームストロング、同じく新ドラマーのコリン・ブリティンが参加しており、こうした新しい布陣で制作されたアルバムが『FROM ZERO』と命名されて11月に世に放たれること、その発売を待たずしてバンドは新たなツアーを開始することも公表された。ずっと止まったままだった時計の針が、一気に猛スピードで動き始めたかのような事態の急変ぶりだった。

なお、エミリーは2002年頃からDEAD SARAというバンドの一員でとしてロサンゼルスを拠点に活動してきた人物で、同バンドではこれまでに3枚のフル・アルバムを発表している。また、コリンは、ドラマーだけでなくプロデューサー、ソングライターとしても知られ、これまでにPAPA ROACH、311やONE OK ROCKとも仕事歴のある人物だ。新たに女性ヴォーカリストが迎えられた事実に新鮮な驚きを覚えた向きも多かったことだろう。しかしそれ以上に、彼女の歌唱がこのバンドに見事に溶け込んでいること、それが “らしさ“ を損なわぬまま “新しさ“ をもたらしている事実に衝撃を受けた。

今回の活動再開にあたり、近年個人での活躍ぶりも目覚ましいマイク・シノダは、次のように語っている。

「LINKIN PARKが始まる以前、俺たちの最初のバンド名はXERO(=ゼロ)だった。今回のアルバム・タイトルは、俺たちの始まりと、現在続いている旅の両方を意味している。サウンド的にも感情的にも、このアルバムでは過去、現在、未来について歌っているんだ。新旧のバンド・メンバー、友人、家族、そしてファンへの深い感謝の気持ちを込めて制作した。俺たちは長年にわたってLINKIN PARKが歩んできた道を誇りに思い、これからの旅路についてワクワクしている。エミリー、コリンと一緒に仕事をすればするほど、彼らの世界レベルの才能、一体感、自分たちの創造性について実感することができた。新しいメンバーと一緒に作ったエネルギーと活気に満ちた新しい音楽で、本当に力をもらったと感じている」

この発言からも、今作の『FROM ZERO』というタイトルが新たなスタート地点と本当の起源の両方を意味するダブル・ミーニング的なものであることはご理解いただけるだろう。実際、XEROが誕生したのは1996年当時のことだ。バンドはその後、HYBRID THEORY、そしてさらにLINKIN PARKと名前を変え、2000年にまさしく『HYBRID THEORY』と題されたアルバムでデビュー。同作は全米アルバム・チャートでの首位獲得こそ逃したものの、ロングセラーを記録しながら最高2位まで到達し、結果的には「今世紀において最も高いセールスをあげてきたデビュー・アルバム」という輝かしい実績を築いている。それ以降、彼らは『METEORA』(2003年)、『MINUTES TO MIDNIGHT』(2007年)、『A THOUSAND SUNS』(2010年)、『LIVING THINGS』(2012年)、『THE HUNTING PARTY』(2014年)、そして前体制での最終作となった『ONE MORE LIGHT』(2017年)を発表してきた。これら6作品のうち『THE HUNTING PARTY』は最高3位にとどまったものの、それ以外の5作品は全米No.1に輝いている。
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LINKIN PARKの音楽の最大の特色は、デビュー・アルバムのタイトル "Hybrid Theory" が示した独自のハイブリッドさにある。彼らは、主にヒップホップの要素を持ち込んだミクスチャー・ロック、ニュー・メタルといった枠組みの中で語られてきたが、常に進化を目論みながら変化を重ねてきたこと、同じようなアルバムが2枚と存在しないということも重要だろう。しかも『FROM ZERO』は、そうしたこれまでの変遷すべてを消化したうえで原点回帰を遂げたかのような画期的な作品に仕上がっている。つまり長きにわたりこのバンドに対する喪失感を味わってきた人たちを満足させるはずの濃密な内容になっているのみならず、まるでデビュー作であるかのような瑞々しさをも併せ持っているのだ。

彼らの過去作品の中でも特に機能美が素晴らしい『METEORA』の発売20周年記念盤がリリースされた昨年、筆者が行ったインタビューの中でマイクは次のように語っている。

「あのアルバムが出た当時にまだこの世にいなかった若者たちがこの音源を聴いて、このバンドを好きになってくれるというのはすごくクールなことだ。誰かに “どんな音楽が好きか?“ って尋ねると、誰でも大概 “こういうタイプのヒップホップ“ とか “こんな感じのメタル“ といった具合に特定のジャンル名を挙げるものだよね。みんな、音楽嗜好について同族意識みたいなものを持っているんだ。俺たちが出てきたのは、そういった偏狭な傾向にうんざりし始めていた時期のことだった。とにかくいろいろなタイプの音楽が大好きだったから、それを全部ミックスしようとしていた。大好きなすべてのものを称賛して敬意を払い、自分たちがそうしたすべてのものから学んできたということを示せるような形で融合させたかったんだ」

2000年代序盤にそうした画期的実験を成功させたLINKIN PARKは、今もなお、冒険心溢れる音楽探求の旅を続けている。このアルバムが彼らにどんな未来を引き寄せ、この先のロック・ミュージックに何をもたらすことになるのかが楽しみだ。
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1.From Zero (Intro)

わずか22秒で終わってしまうが、アルバムのタイトル・チューンであると同時に、文字通りのイントロダクション。アルバム全体を通じて約32分間というコンパクトな仕上がりの幕開けとなるトラックだ。

2.The Emptiness Machine

新体制での第1弾として9月5日に先行公開され、このアルバムからの最初のビデオ・クリップにもなった楽曲。まずワンコーラスをマイクが歌い、コンパクトな間奏を経てヴォーカルがエミリーに受け継がれていく。<何かの一部になりたかっただけ>と繰り返されるコーラス、そしてその<何か>を指す<空虚なマシーン>とはいったい何を意味するのか?一聴してLINKIN PARKだとわかる曲調でありながら、きわめて新鮮な手触りの曲だが、そうした歌詞の意味深長さにも注目したい。

3.Cut The Bridge

切り刻むようなビートとマイクによるラップから始まり、そこからエミリーの歌唱へと受け継がれ、サビ部分では両者の歌声が絡み合っていく。<橋を叩き切れ>という意味合いのタイトルにネガティヴな印象をおぼえる向きもあるだろうが、<行けるところまで行ったら退路を断て>と繰り返す歌詞は、前だけを向いて突き進んでいくことへの強い覚悟を感じさせるものでもある。

4.Heavy Is The Crown

「The Emptiness Machine」に続く第2弾の新曲として公開された、3分にも満たないコンパクトな楽曲。こちらもマイクのラップからエミリーの歌唱へと移行していく王道的展開によるもの。歌詞の主人公は、目標だけは高く掲げていながらも無気力な人物。誰にでもそうした部分はあるはずだし、そうした意味においてもリスナーが感情移入しやすい内容といえそうだ。<これが欲しかったんだろう? 重くのしかかるもの、それが王冠>と繰り返されるサビの歌詞も意味深長だ。

5.Over Each Other

第3弾シングルとして先行リリースされたナンバー。ごく短いイントロから、マイクとエミリーのデュエット形式で始まる。こちらも3分間に満たない簡潔な仕上がりだが、その中で歌われているのは、お互い根拠もないままに相手を論破しようとするやり取りの空虚さ。ビデオ・クリップについてはDJのジョー・ハーンが監督を務めており、コリアン・アメリカンの彼にとってのもうひとつの故郷である韓国で撮影されている。

6.Casualty

エミリーの強烈なスクリームで幕を開ける刺激的なチューン。クールな感触の歌声も魅力的だが、彼女の特性がそれだけではないことが証明されている。激しい調子で <解放して! 犠牲になんかなるもんか!>と繰り返すこの曲は、今後のライヴでもオーディエンスを扇動することになるに違いない。2分20秒という無駄のないサイズも魅力的だ。

7.Overflow

前曲から一転、浮遊感のあるミステリアスな空気感を漂わせるナンバー。曲が進んでいくにつれて徐々に意識が薄れていくような感覚をおぼえてしまう。歌詞に綴られているのは<際限なく自ら注ぎ込むばかりで、それが洪水を招いている>という自己矛盾。こうした深みのある歌詞に込められた真意も今後、彼らの口から明かされていくことだろう。

8.Two Faced

2000年代序盤のニュー・メタル/ミクスチャー然としたギター・リフにラップが絡み、そこから合唱必至のキャッチーなコーラスへと転じ、アグレッシヴに展開していく。ある意味LINKIN PARKの王道と言ってもいいだろう。歌詞の中にアルバム・タイトルとも関連深そうな “counting to zero” という一節が登場することも見逃せない。また、この表題が意味するのは、<どっちつかずの態度でどちらにでも良い顔をすること>であるようだ。

9.Stained

このタイトルが意味するのは<染み付いている>、すなわち<すでに穢れた状態にある>ということ。この曲では、<洗い流そうとしても痕跡は消えず、穢れた状態を取り繕うことはできない>と歌われている。深読みを誘うような歌詞もまた、このアルバムにおける大きな魅力なひとつだ。

10.IGYEIH

エミリーの叫びで幕を開ける攻撃的なナンバー。記号めいたタイトルは、歌詞にも登場する<I give you everything I have(私が持っているものすべてをあなたに与えよう)>というフレーズの頭文字を繋げたもの。この言葉自体はラヴソングでも使えるかもしれないが、この先にどんな歌詞が続いているのかはあなた自身の目と耳で確認してみて欲しい。

11.Good Things Go

マイクとエミリーが交互に輪唱のように歌いながら始まるこの曲で、アルバムは幕を閉じる。タイトルは<良いことが起きていく>といった意味合いだが、歌詞自体は<良いことが起きていた場所に、悪いことが居座ることもある>と綴られていて、最後はそうした状況下においても傍らに寄り添ってくれていた存在に対しての感謝の言葉で締め括られている。そんな歌がやや唐突に終わり、意味ありげな効果音で幕を閉じると、次の瞬間には条件反射的にリピートボタンを押したくなってしまう。こうして『FROM ZERO』の無限のループは続いていくことになるのだ。
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